万年筆の価格は、58,000円。 他にボールペン・ローラーボール・シャープペンシルも発売されている。
さて、『アフリカ』が発売されて半年近く経った。 皆さんは実際にご覧になられたのだろうか。何を今更『アフリカ』なんだと思われる方もおられるだろうが、以下に3本並べた画像は全てアウロラ『アフリカ』である。
何の説明の必要もないと思うが、これも煤竹同様1本1本柄が違う。 今回ご紹介した3本は、フルハルター在庫5本の中から選んだモノだが、全く違う柄である。3本並べた一番上は大袈裟に言うと、「真っ黒」、それに反して一番下は「キャラメル」。中の柄が一般的だと思うが、同じモデルでこれだけ柄が違うのは大変珍しい。ペリカンの茶縞どころではない。
もうお判りだと思うが、3本並べた画像と1本ずつの画像は反対の面(180度回転させた)をご覧いただいている。どうか、実際に『アフリカ』を見ていただきたい。
最後に、このモデルを選ばれたフルハルターのお客様の半数は女性というとても珍しい結果であった。
皆様にとってどんな年でしたでしょうか。今年もまたこのホームページを介して、新しい方達との多くの『出会い』をいただくことが出来ました。
お問い合わせが寄せられる中で一番多いのは、やはり、どのような万年筆を選べばよいかということについてで、このことが多くの方にとって最も興味あり、また悩ましい事柄であることが拝察されます。フルハルターではお客様とお会いしてご要望や持ち方などを確認しながら、万年筆やペン先の太さをお決め頂いておりますが、<初めて万年筆を使われる方/各種国家試験を受けられる方/久し振りに万年筆を使われる方/今までに多くの万年筆を使われている方>と、それぞれの立場によって、選ばれるパターンがありました。
・初めての方達の多くは、小さめのボディに細めのペン先を選ばれます。
・国家試験を受ける方は、早書きに慣れる為に小さめのボディに、腰の硬い、強い筆圧に耐えられる中字程度の太さのペン先。
・久し振りに使われる方のご相談は、多岐に渡ることが多く、ボディの太さ・長さ・重さによるバランスをご自身で確認されます。持ち位置によってその良さが全く違ってしまうことを実感されています。ペン先の太さも、太くなればなる程滑らかな書き味になることを実感され、人によっては大いに悩まれ、楽しくも苦しい時を過ごされています。この方達の中には、“万年筆ウイルス”に感染する可能性の高い方がおられ、“危うさ”さえ感じます。
・これまでにも多くの万年筆を持ち、数多くの万年筆を使っておられる方達は、『森山モデル』と呼ばれているB・BB・3Bの極太、超極太を選ばれる方が多くおられます。「これが『森山モデル』ですか。聞いてはいたけど、これは書いてみないと判らないね。」とおっしゃってくださいます。かなり万年筆の後ろを持って使われる方が多い為に、ペリカンM800/M1000のスターリングシルバーのような重い万年筆に、超極太のペン先を楽しく使っていただける方が多いですね。
今年は渋谷で、使い手に合わせて手縫いで造っておられる革職人さんとの出会いもありました。お話ししてみると、職人という意味での共通点も多く、生き方までも共感させられ“一生のつきあい”をしたいと思える方でした。
またある時、訪ねて来られた方たちは、ご自分の持っておられる万年筆の話をされているのですが、何か目的が違うのではと感じました。やはり、ある素材が万年筆の軸にならないかという相談が、主な目的でした。まだ形にはなっていないのですが、万年筆業界の仲間が増えてくれるのかと、楽しみです。
私にとってはこんな2002年でしたが、皆様のお陰で『決断の10年目』に無事突入することが出来ました。皆様と、2002年に心から感謝申し上げます。どうぞ、良いお年をお迎えください。
2002年12月28日
――下書きは鉛筆かボールペンでやる。 アイデアを模索する段階で、ここが最も苦しい。 だがそれがすみ万年筆で清書する時は、これは楽しい。 たいていの神話では、はじめに神が出現し、もやもやしたところに天地を作り、最後に仕上げとして人間をお作りになったことになっている。 その人間を作る時の気分と似たようなものではないかと思う。 だから、清書の途中でインキが切れ、字がかすれたりすると不快になる。 楽しみをじゃまされたようなのだ。 しかし、モンブランの万年筆には軸に透明な窓がついており、その心配がなくてありがたい。 きめのこまかいくふうである。 ちょっとした発明ではあるが、それによってどれだけ多くの人の不快さを消したか、はかりしれないことだろう。
星新一著『気まぐれ博物誌』(角川文庫)より
「私の記憶に残る万年筆に関する文章をご紹介致します。星新一氏は1,000作を超える短編小説で有名ですが、エッセイも多く上記の作品はその一つです。軽い文体、奇抜なアイデアからなる結末が魅力で、高校生の一時期文庫で入手できる全ての作品を読んだ覚えがあります。
私はこのエッセイで星新一氏が透明の窓がついたモンブランを使っていることを知り、デパートの陳列ケースで1つだけ台に傾けておかれている太目のそれらしい万年筆をみつけて、“欲しい、使ってみたい” と思いましたが、同時に値札を見て、“これは子供が持つものではない”と諦めた記憶がよみがえります。 (横浜市 T.K.)
※ この『気まぐれ博物誌』は、いくつもの章によって構成されており、そのなかの一つとして「万年筆」というタイトルの文章が収録されています。残念ながらこの本は現在絶版となっており、書店で手に入れることができませんが、図書館などでなら手に取ることができると思います。上に抄録した部分以外に、司令官と市長の“剣とペンの対決”、アメリカの推理作家ウールリッチの短編『万年筆』などについて描かれています。興味のある方はさがし出して読んでみられて下さい。
池波正太郎氏の著作の中に『男の作法』(新潮文庫刊)という本があります。この本は、『ビジネスマンが読んでおくべき110冊の本』(渡部昇一監修三笠書房刊)の中でも、読んでおくべき1冊の中に選ばれています。池波正太郎という、稀代の粋人の人生訓ですから、『~110冊の本』でも絶賛です。以下のように述べられています。
――「著者のこうしたものの見方・考え方、人生観は、時代を超えた普遍的な力強さをもっている。本書は、読む時期が早ければ早いほど、その人の人生を豊かにしてくれるはずだ。」
実際、僕がこの本に出会ったのは大学に入りたての頃、約10年前のなのですが、折に触れ、読み返しています。 これまでに読んだエッセイの中では極上のものの1つです。
この『~110冊の本』では、紹介されているそれぞれの本のハイライトともいうべき、最も大切な部分が抜粋されているのですが、この『男の作法』からは、下の部分が抜粋されています。
――万年筆だけは、いくら高級なものを持っていてもいい。それ(万年筆)は男の武器だからねえ。刀のようなものだからねえ、ことにビジネスマンだったとしたらね。だから、それに金を張り込むということは一番立派なことなんだよね。
池波正太郎 『男の作法』より
……まさに「万年筆」の部分なのです。 全編が必読とでもいうべきこの本の中の、それでも一番大事な部分が「万年筆」!この部分を抜粋した、『~110冊』の本の著者にセンスを感じます。
確かに、当時大学生だった僕には万年筆の大切さは、実感はできなかったのですが、この部分は強烈な印象として残っていました。あれから10年、長原さん、森山さんたちの作品に出会い、ついに池波正太郎の言葉が実感としてわかるようになったのです。嬉しいことです。「あるいはもっと早く出会いたかった」とも思いますが、それよりもやはり、「もっと遅くなくてよかった。30歳という、社会人として、まさにこれから、という時期に万年筆の世界を知ることができて本当に良かった」と思っています。
※ 『ビジネスマンが読んでおくべき110冊の本』は、現在『ビジネスマン“最強”の100冊 』とというタイトルに改題され、販売されています。
ダイヤ産業での品質管理、アフターサービスについては、技術部門ということで、経営者が良く理解していない部分も多く、治外法権で私自身の万年筆に対する哲学を実践することを許されていた。 市場へ出荷する万年筆は、全てライティングテストをしてからでないと認めなかった。 サービスステーションでは使われる方の筆記角度や筆圧、好みに合わせて無料で万年筆の調整をし、「ここがあるから、安心して買えるよ」と、信頼関係を築くことが出来た。
一方でモンブラン社が、当時から今日のブランド方向へ進んで行くであろうことは、推測出来た。 私はブランドが悪いなどとは全く思っていないが、職人の仕事を続けたかった自分には、合うとも思えなかった。 それでも一生サラリーマンで終えるとしか考えていなかった私は、1993年3月から新たなモンブラン日本総代理店に籍を置き、悩みに悩んだ。
ブランドが自分に合わないとはいえ、自分には他に何が出来るのか。 2人の小学生の親である私は、これから10年以上も生活を維持出来るだろうか。 悩みは深く、大きい。 悩みに悩んだ末の結論は、親であると共に自分らしい生き方、つまり万年筆職人ペン先研ぎ一筋で生きていくことだった。 モンブランのアフターサービスでの経験から、万年筆は使う人固有の書き方(筆記角度・筆圧・好み)があり、ボールペンと違い、誰にでも合うモノではない。 使い手に合わせた調整をしてきた経験を生かして、オーダーメイドだと言い過ぎだが、プチオーダーとでも言うべき万年筆専門店を開店することを決意した。
万年筆専門店を開店するにあたり、3つの大きな柱を課した。
1. 使う方に合わせて調整した万年筆が、他で買われたモノと全く違うと
思っていただける書き味に仕上げられる技術力。
2. 万年筆のことをゆっくり気楽に相談出来る店、今の時代に反する時間を気にしない、
「時間が止まった空間」を味わうことが出来るような店でありたい。
3. 3番目が<決断の10年目>である。
今更、万年筆専門店など……が世の常識。 殆どの方は、2~3年もてばいい方じゃないと思っていたに違いないし、他の人が店をなどと言い出せば、私自身もそう思っただろう。 「石の上にも三年」ということわざがあるが、万年筆だったら、10年と決意した。 世の中に認知される前に止(や)めることは出来ない。 けれど、いつまでも、だらだらと続ける訳にもいかない。 『フルハルター』という万年筆専門店で、ひとり、ひとりの方に合わせた調整をした万年筆が、社会に存在する意味があるのか。それを判断するのに、どうしても10年間は続ける。 これが3番目に己に課した柱である。
来年の今日がその判断の日である。 しかし、決して廃業したいと願っている訳ではない。 10年でも20年でも続けてゆくことを、切に願っているのだが、世の中が、社会が、続けてゆくことを許してくれるのか、来年の今日が決断の10年である。 そしてこれからは、毎年この日10月30日が、決断の日と心している。
この9年間で、いろいろな方との出会いがあった。 業界の方では、セーラーの長原さん。 この方のお蔭で、クロスポイントを始めとするおおよそ万年筆とは思えないようなペン先との出会いがあった。 フルハルターオリジナルチタンを供給してくれるエイチ・ワークスの長谷川晃嗣さん。 どの時代の、どこの万年筆の修理も受け付けるパイロットナミキの皆さん。 技術研修をさせていただいた伊東屋の方達。 使い手の方々としてモンブラン時代から存じ上げている“万年筆倶楽部 フェンテの会”の中谷でべそさん。 『4本のヘミングウェイ』を出版された古山浩一さん。 またフルハルターでご購入いただいている多くのお客様。 ご自身で“フルハルター北海道兼極東支部長”と名乗ってくれる医師の方。 熊本からご夫婦と2歳の娘さんで来られる大学の先生等々。 大勢の方から勇気をいただいた。 そして何よりも、9年間のフルハルターの歴史が着実に刻まれた。
来年の今日、私にとっても家族にとっても、そして支持していただいている皆様に対しても、いい決断の日に出来るよう、今日からの1年を大事にしたいと思っている。
そんな思いでいた私に、10月8日に放送されたNHKの『プロジェクトX』の中に、私を勇気づけてくれる言葉があった。
「止めてはいけない。 止めるから失敗するのだ。 いいと思ったら続けなければ。 」
フルハルターも止められない。 それは、私自身ががいいと思っているから。