フルハルター*心温まるモノ

<4> 藤本義一氏 その2

―― モノに愛しさを覚えると、モノが反応を示してくれるような気がする。ぼくの場合は職業柄、そのモノが万年筆であるということになる。

  一度、この相棒の1本がテレビ局のロビィで姿を消したことがあった。あきらかに盗まれたのだ。ぼくは慌てた。捜した。見つからなかった。その2、3日は、まったく原稿が書けなくなった。そして、今、あの万年筆は何処で、どんな奴に使われているのかと思うと、口惜しさよりも哀しさが先に立つのだった。
  友人は、「同じモノを買えばいい」といったが、同じ形で、同じ色で、同じ値段のモノは沢山あるだろうが、それらは、同じようなモノであって、決して、同じモノではないからである。
 (1980年録)


  万年筆好きで実際に何本、何十本と使っている方には、上記の「同じようなモノであって、決して、同じモノではないからである。」は、説得力のある言葉と実感できるのではないだろうか。

  店頭に並ぶ同じメーカー、同じモデル、そして同じペン先の太さの万年筆達でも、決して同じモノはない。 それが相棒とまで呼べる程、使い込み慣れ親しんだ万年筆であれば、なお更である。

  藤本さんにとっては、子育てをしている最中に行方不明になってしまった子供のようなモノだったに違いない。
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# by fullhalter | 2001-10-06 11:42 | 作家と万年筆

フルハルターオリジナルチタン製万年筆

フルハルタ-オリジナルチタン製万年筆は注文をお受けしておりません。(2006年~)
  

  フルハルターオリジナルチタン製万年筆は全ての部分が完全手造りである。手造りと言っても、ペン先、ペン芯部分はメーカーからの供給だが、ペン先は地金からのたたき出しにイリジウムポイントを溶接し、切り割り入れ、研ぎ出し、ペン芯もエボナイトの丸棒からの手造りである。 ここまで全てを手造りにしたのは、きっと過去に例がないと思う。

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  キャップ、キャップトップ、ボディは多面体だが、これはチタン無垢の丸棒からの削り出しである。 丸棒の中を削り出し、外側は3の倍数の多面体に削り出していく。 この工程で削り出された切り子は、大きなゴミ袋2杯になる程で、それ程削り出し作業をしなければならないということである。

  キャップの天地、ボディエンド、そしてクリップは少し色が濃くなっているが、チタンのサンドブラスト仕上げ。 ボディ中央部分にサンドブラストをかけ、フルハルターのロゴを彫り、通しナンバーを入れてある。

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  インク吸入については、ボディから尻キャップを外して、吸入回転ノブをペリカンやモンブラン同様に回転してインクを吸入する。 回転ノブはエボナイト。

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  ペン先は18金 たたき出し。 ペン芯はエボナイト製手造り。ペン芯もエボナイトの丸棒から、インクをペン先に送り出す溝、空気交換溝、そしてインク溜りのくし溝をそれぞれ加工するのだが、万年筆の心臓部分にともいうべきペン芯加工は、非常に微妙なところで難しい。

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  ペン先は18金の厚い地金をたたき出し、焼き入れの作業を繰り返し、適度な厚みに仕上げていく。 イリジウムは、ドイツのメーカーの最高部品を使用。 硬さ、軟らかさを使い手の好みに合わせ決定し、イリジウムポイントを溶接し、切り割り作業。 更に超極細から超極太(BBまたは3B程度)まで、使い手のご希望に合わせて時間をかけて丁寧に研ぎ出す。

  さて、フルハルターオリジナル万年筆(Newモデル)は、従来の製品にさらに改善を加え、一部仕様が新しくなっている。 それぞれの変更箇所は、次の通り。

 
  (仕様 )      (従来品)            (Newバージョン)
キャップの天地   エボナイトを使用        チタンのサンドブラスト仕上げ

ボディエンド
クリップ      スターリングシルバー       チタンのサンドブラスト仕上げ

インク吸入方式   パイロットプッシュコンバーター  ペリカン等が採用しているピストン回転吸入方式

         


  今回の仕様変更において、こだわったところは2箇所ある。


<1> インク吸入方式

  万年筆のインクを入れる方式には過去からいろいろとあった――スポイトで入れる方式、テコ式、尻ノック、プランジャー、タッチダウン、中押し等々。 そして最新がカートリッジ式である。 しかし、私はカートリッジ式の便利さは認めてはいるが、回転式ピストン吸入方式が最も優れていると思う。 その説明は長くなるのでここでは省くが、カートリッジとピストン吸入方式は言い換えれば、オートかマニュアルかという違いに似ていないだろうか。 私は万年筆という道具には、マニュアルが似合うと思っている。どうしてもピストン吸入式にしたかった私にとっては、今回の仕様変更は完璧に近づいたという思いである。


<2>サンドブラスト仕上げ

  キャップトップ・エンド、ボディエンドをエボナイトからチタンサンドブラスト仕上げにしたことにより、キャップをボディの太さに近づけることが可能になった。 エボナイトはある程度の厚みがないと強度に問題が出る為に、キャップエンド(ボディ側)をエボナイトにすると、どうしてもキャップの太さはボディに比べ差が出て、かなり太くせざるを得ない。 しかし、ここをチタンにした為にかなり薄くしても強度が保たれる為、ボディとの太さの差を非常に少なくすることが出来るので全体がスマートになった。 チタンのグレーとエボナイトの黒も似合っていたのだが、サンドブラストの濃いグレーの方が更に品が出たように思う。

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【 現在のサンプル 】
   ボディの太さ    15ミリ (12角) ・ 18ミリ (15角)
   ペン先       18金 超極細から超極太まで
   インク吸入方式  ピストン回転吸入方式
   価格        160,000円 (本体価格)
            
         
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# by fullhalter | 2001-09-22 11:05 | Fullhalter Original

第八話 フルハルターの看板について



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  フルハルターの看板は、一位(いちい)の木で作った。
 
  いちいと言っても判らない人が多いかも知れないが、飛騨高山では「いちいの一刀彫り」として昔から有名である。北海道では「おんこ」と呼ばれ、母の実家の北海道で生まれた私は良く知っていた。 この木は内部に油分を含んでいる為だろうと思うが、時の経過と共に色が濃くなり、深いツヤが出て味わい深くなる。 私の良く言う「熟成」である。

  その内家具でも造る為に、何時の日か「おんこ」を手に入れたいと思っていた私は、かれこれ30年位前にその機会を得た。 札幌の叔母のところに滞在していた時に、「おんこが欲しいのだけれど何とかならない?」と聞くと「旭川に製材会社の社長の知り合いがいる。」と言われ、旭川まで出かけた。 旭川の会社に着いた私達をその社長は車に乗せて山の中を小1時間も走り、貯木場に連れて行ってくれた。 そこには直径30cmから70~80cmもあろうという大木がごろごろと横たわっていた。
  
  「これがおんこだ。どれが欲しいんだ。」
  おいおいこんな大木をどれが欲しいんだと言われたって、材木屋じゃあるまいし、答えられる訳がねえだろうと心の中で思いながら、
  「どれが欲しいと言われてもだいたい、いくら位するのかも判らないので。」 
  「ああ、安いよ。」などと会話をしながら、大、小取り混ぜて5本位選んだ。 自宅まで運んでいくらになるか確認すると、十数万円だった。 当時の十数万円は決して安くはないが、何となく買うことになってしまった。

  それから20年余り、庭で厄介ものになっていた、その「おんこ」達の出番が巡ってきた。 1993年 モンブランの退職を決意し、万年筆専門店を開くことにした私は、店の看板、テーブル、イス、その他もろもろをこの「おんこ」達で造ることにした。 在職中の休日は朝から夜まで、退職してからは毎日が「おんこ」達との格闘だった。
  好きな大工仕事、それも少しずつではあるが形になっていく嬉しさ。 更に日々店らしく配置されていく「おんこ」達。 心躍る人生最良の時期を「おんこ」と共に過ごした。 今は懐かしい「思ひで」。

  この「おんこ」達で造ったものには、ロゴ看板の他に看板が2枚、店用のテーブルにベンチ2つ、作業場のテーブルにベンチ2つ、そして、傘立てにごみ箱。 思い返すも楽しい日々だった。



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(現在看板はワイルドスワンズの看板も含めて全部で5枚です。2004-09)
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# by fullhalter | 2001-06-30 10:00 | 私と万年筆

ペリカン・ギリシア限定生産品 ダイダラスイカルス




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  ペリカン限定生産品はこのホームページでもすでに紹介した通り、現在「玄武」が発売されている。 この玄武は「四神」の最後のモデルで、1995年ゴールデンダイナステイ「青龍」、1996年ゴールデンフェニックス(朱雀)、2000年ホワイトタイガー(白虎)が発売され、これらはアジア地区のみの限定で生産本数はそれぞれ888本であった。
  
  間もなく、ギリシャ限定生産品「ダイダラス~イカルス」モデルが発売される。 ペリカンのヨーロッパ地域の限定モデルは、1996年オーストリア限定「オーストリア1000」(1000本)、1998年ギリシャ限定「オリンピアード」(776本)と、今回のギリシャ限定「ダイダラス~イカルス」(800本)で3本目だが、本国を中心にヨーロッパ地域で発売される(た)。


  先日、幸運にも現物を見る機会を得た。
  万年筆好きの方だとご存知かも知れないが、今回の「ダイタラス~イカルス」と同様日本未発売だった1993年の「ブルーオーシャン」と少し似たところがある。 ブルーオーシャンはその名の通り、キャップ・ボディーがブルーでわずかに透明のモデルだった。 フルハルターでも発売後「欲しい」 あるいは「好きだ」と言う方が多かった。

  しかし私は、今回の「ダイタラス~イカルス」の方がはるかに好きだ。 このキャップ・ボディはブルーオーシャンよりもうすいブルーで、何とも言えない淡い色合いが気品に満ちていてとてもいい。 ペリカンでは「エーゲ海の空の色のイメージ」で製造したとのこと。 確か日本古来のガラス製品に同じような色合いがあったと思う。

  またキャップ・ボディの4ヶ所はリングがついているのだが、それぞれはスターリングシルバー製でボディの真中にはやはりスターリングシルバーの「イカルス像」がはめ込まれていて、何ともたまらない魅力的な容姿であった。 そしてトップとエンドにはスターリングシルバーのプレートがつき、トップにはペリカンマークが刻み込まれていて、淡い透明のブルーキャップ・ボディととても合っている。

  これまでに限定生産されたものは、非常に多い。 私の好みで申し上げると、ペリカンでは「ハンティング」・「オーストリア1000」・「初めの1931」、モンブランでは「ロレンツォ・デ・メヂッチ」・「アガサクリスティ」、アウロラでは「ダンディ」が気に入ったモデルで、これらは、自分の為に欲しいと思わせてくれたモデル達である。

  「ダイダラス~イカルス」は、久し振りに自分の為に欲しいという衝動にかられた万年筆だ。 その衝動が今までで一番大きい気がする。 淡い気品に満ちた透明のブルーにスターリングシルバーのそれぞれがあしらわれた全身。 私の好みだが、いいですよ。 

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# by fullhalter | 2001-06-25 16:10 | 限定品万年筆

第七話 酒井栄助さんをたずねて 

  私が酒井栄助という名前を知ったのは、モンブランの日本総代理店ダイヤ産業に入社した20数年前だった。当時、雑誌等で「手造り万年筆」として紹介されていた職人グループの方達がいた。

  ペン先――兜木銀次郎 軸――酒井栄助 塗り――高橋吉太郎 仕上げ――土田修一。 
……今思えば、ゴールデンカルテット。
  明治の生まれだった兜木銀次郎さん、高橋吉太郎さんはすでに亡くなられたが、大正生まれの酒井さん、土田さんのお二人がお元気で「手造りインキ止め式万年筆」を造っておられる。

  私が酒井さんのお人柄に触れることが出来たのは、1999年7月4日にオンエアーされたNHKハイビジョン<ハイビジョンギャラリー>“この素晴らしきモノたち――万年筆――” の中だった。
  この番組で造り手として酒井栄助さん、長原宣義さん、セーラー万年筆天応工場、万年筆博士。書き手として書家の川西譲さん。画家として今回の酒井さん訪問に御一緒させて頂いた古山浩一さん。売り手として銀座伊東屋、そしてセーラー長原宣義さんのペンクリニック風景。スタジオには作家の松山猛さん、世界的コレクターのすなみまさみちさん、そして私というメンバーだった。

  ビデオを入手するのは難しいかと思うが、見ると参考になる番組だと思う。ちょっと、NHKの宣伝が長すぎたかも知れないが、この番組の中でエボナイトを削り出す作業が写し出された後、酒井さんが「だいたい、もう手で挽いてるっていうのも時代遅れかも知れないけど、まあ、これしかないからやってますけどね。」と言われた。そのおっしゃり方がまさに職人の言い方で、70年もろくろ挽きをされてきた方の顔と心だった。

  この番組の中で私が一番心惹かれたのが、このシーンだった。それ以来、直接お会いしたいと思っていたが、前回更新で申し上げた経緯を経て訪問が実現した。改めて古山さん、杉山さんに感謝したい。
  さて、埼玉県に新座市の酒井さん宅を訪れた3人はまず、御一緒に昼食に出掛けたのだが、4人のメンバーには似合わないファミレスだった。酒井さんは「オレは肉は余り食わない。野菜がいいな。蕎麦をよく食うよ。」 これは、私の職人イメージにぴったり。1時間半程の昼食を終え、酒井さんの自宅に戻った。我々は残っていた作品を見せて頂いた。

  3人はそれぞれ自分の気に入ったものを数本ずつ譲って頂いたのだが、その後が面白かった。あちらこちらに置かれてあった製品や半製品を見つけては、気に入った人が「酒井さん、これは譲って頂けますか?」 「これキャップが無いのですけど、気に入ったのでいいですか?」 やりとりがしばらく続いた。その時の3人は、オモチャ箱を覗き込む子供であり、駄菓子屋の中のガキのようだった。

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作業中の酒井さん。 うしろは森山。


  そうこうしている内に、酒井さんはろくろを挽き始めた。古山さんと杉山さんは横から、私は上から覗き込んでいたのだが、その手さばきの凄さ、素晴らしさにただただ魅せられ、言葉を失っていた。

  セーラー長原さんのペン先研ぎが共通していて、熟練した職人のみが成せる見事な手さばきである。あっという間に、ボディだけだったものにキャップがつき製品になった。また3人が選んだものの中に、ペン先とペン芯が入る首軸の内径が太すぎるものがあった。これらもその棒を削り出し、首軸の中に埋め込んだ。そして今埋め込んだ棒のセンターに、ペン芯が入る穴を開け始めたのだが、3本あったその作業もあっという間の出来事で、まるで手品師。 熟練した職人の業は、まさに芸術である。

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ろくろのチャックにかませたエボナイトの軸の削り出しが終り、切り落としているところ。

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エボナイトの首軸にペン先、ペン芯の入る穴をあけているところ。

  
  ろくろ挽きが終わった後は、ゆっくりとお話をさせて頂きながら、万年筆に合うペン先とペン芯を選んだ。ただそれらは、軸に組み込まれていないバラバラの部品。酒井さんに組み込んでもらっても良いのだが、我々はそれらを組み込む楽しさを味わうことにして、5時間あまりの訪問を終え、酒井さんの工房をあとにした。

  今頃杉山さんは、ペン先、ペン芯の組込み作業に苦しみながら楽しんでいることだろう。勿論この作業も簡単ではないが、酒井さんが目の前で自分の為に造ってくれた万年筆達なので、酒井さんを思い出しながら……。最後に私が確認することを約束したので、安心して作業を楽しんでいることと思う。 またいずれの日か、新座を訪れることを夢みて。

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左から、杉山さん、酒井さん、森山。
そちこちにある宝箱から宝を探し出しては酒井さんに確認しているところです。
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# by fullhalter | 2001-05-19 13:07 | 私と万年筆