第三十八話 フルハルター23歳
あっという間の23年間という思いもあるのだが、よく23年間も続けられたものだと思う。
お客様が私と私の家族を活かしてくださったと思い、いつも感謝しています。
ふとこの業界に入った頃のことが思い浮かび、これまでもHPで申し上げたことがあるのだが、ご存知ない方もいらっしゃるのではとの思いで、申し上げることにした。
21歳からこの道で一生をと、あるアルバイトをした。
その最初の給与で一生使えるものを求めたく、15,000円の月収の3分の2をはたいて、MONTBLANC No.14を買った。
そのNo.14をまずご覧いただくのだが、最初の給与で求めたものでなく、40年近く前にモンブラン輸入元に入社した後に買ったものだ。


ペン先は3B

1966年に求めたそのNo.14は、10年後にキャップチューブが割れていることに気づいた。
何故割れたのか、説明しよう。
この時代のNo.14、No.12、No.24、No.22は同じ方式で、キャップチューブ内にバネカツラという部品があり、天ビスでクリップを止めていた。

このバネカツラの役目はクリップを天ビスでキャップチューブに固定することと、胴部分をキャップに収納した時(使わない時)に首軸部分を押さえ、締め付けて固定させていた。
つまり、使わなくともこのバネカツラが常時キャップチューブの内側から外側への圧力をかけている。

この為に私の大切な「記念のNo.14黒軸」キャップチューブが割れた。
1976年無職だった私は輸入元を訪ね交換を依頼したところ、
「金張りのNo.74に交換した方がいいよ。」とのアドバイスに従い、No.14からNo.74に変わることになった。
この時、修理担当された方から、
「人が足りなくて…」との話を聞き、
「私、どうでしょう。」との経緯で入社が決まった。
40年近く前のことだ。
では、黒から緑に変わったが、そのNo.74をご覧ください。

ペン先は20年ほど前に長原宣義さんに造っていただいたクロスポイント。


40年近く使い続けた故、金張りのキャップチューブのある部分に削れ、めくれが出た。


1960年代に製造された、このMONTBLANC No.74はある意味、私にとって「万年筆の中の総合ナンバーワン」と言えるモデルである。