Noodler’s Ink 使用報告 紅鮭 in Kings Blue's Room
私の手元にあるヌードラーズインクは、Red, Tiannanmen, Antietam, Shah’sRose, Violet, Saguaro Wine, Habanero, Midnight Blue, Ottoman Azureの9色ありました。
そこで、便宜上、赤系(Red, Tiannanmen, Antietam, Shah’s Rose)、紫系(Violet, Saguaro Wine)、青系Midnight Blue, Ottoman Azure)、黄色(オレンジ)系(Habanero ※この色に関しては、どこの分類にも入らないと判断し、別扱いにしました。)とに分類して比較的近い色同士で、相対的に眺めてみることにしました。
1. 赤系統
Red(赤):ずいぶん深い感じがする赤です。プライベートリザーブのフィエスタ・レッドに近いものがあります。「紅色」という感じです。

Tiannanmen:「天安門」の意味。ラベルには、戦車の列が道路を行進しているという物騒な光景が描かれています。1989年の「天安門事件」のアメリカ人に与えた衝撃がいかに大きかったのかうかがうことができます。色は、赤と比べると多少くすんだ色合いになります。おそらく、「血の赤」という意味を込めて命名されたものと思われます。

Antietam:いわゆる「鉄錆色」です。アメリカ人は「アンティータム」と聞くと南北戦争の古戦場をイメージするようです。南北戦争時、序盤戦はリー将軍率いる南軍が押し気味でしたが、1862年の「アンティータムの戦い」において、戦局は逆転し、リー将軍は後退を余儀なくされました。これをきっかけにこの年の9月にリンカーン大統領が「奴隷解放宣言」を発表します。日本でしたら、「天下分け目の関が原」というところなのでしょう。「アンティータム」が鉄錆色をしているのは、ここで流された兵士たちの血、あるいは、戦場に打ち捨てられ錆び付いたライフル、大砲などの銃器類などの鉄錆色からの連想かもしれません。
※ したがって、TiannanmenとAntietamとは対比させて見てみるとよいかもしれません。前者は、民主化運動のために最近流された血の色を表現し、後者は、奴隷解放のために流された血の色を表現しているのでしょう。

Shah’s Rose:イラン系の王は「シャー」と呼びます。王の宮殿に栽培されていた薔薇の色からの連想かと解していましたが、当時の後宮では女性たちが薔薇から抽出したオイルを肌に塗ったり香りを楽しむなどして使っていたということからイメージした色であるようです。マーマレードイエローさんのお手元にある、Ottoman Roseの色と対比させてみると面白いかもしれません。インクの色は赤紫がかった濃いピンク色という感じですが、上品なピンクです。


2. 紫系統
Violet:紫ですが、私から見ると、ずいぶん青っぽいなという感じがします

Saguaro Wine:サ(セ)グワーローとは背が高く、枝を水平につけるサボテンの一種。弁慶柱とも呼びます。ラベルにもサボテンが描かれています。白色の花をつけ、果実は食用とします。この果実からこのインクの色のようなワインができるようです。(ちなみにcactus wineというサボテンから作ったワインは、明るい赤色で、elderberry(ニワトコ)の実のような紫がかった色だそうです。)このインクの色は、Violetと比べるとだいぶ赤みがかっていますが、日本人の感覚から言うとこちらの方が「紫らしい」と感じるかもしれません。朝顔に多い赤味がかった上品で落ち着いた紫色です。


3. 青系統
Midnight Blue:「真夜中の青」という意味。かなり深い青色です。「紺色」と言っても良いかもしれません。

Ottoman Azure:オットマンとは、オスマン・トルコを指します。アズールは澄み渡った空(蒼穹)の色を意味します。したがって、地中海沿岸のイスタンブールの空はきっとこんな感じなのでしょう。博識のTさんによると、「Ottoman Azure」という色は、アメリカ人にとってはラピスラズリ(瑠璃色/群青色)のイメージなのだそうです。実は、ラピスラズリ(lapislazuli)という語は、lapisがラテン語で「石」の意味。lazuliはペルシャ語(Lazward)に由来しており、意味は青色という意味で、要するにラピスラズリで「青い石」という意味になります。ちなみに、Lazwardという語は、スペイン語・ポルトガル語のazul、イタリア語のazzurro、英語のazure、フランスとのazurの語源となりました。このイスタンブールにラピスラズリを用いたタイルを使い、青く見えるので、「ブルーモスク」と呼ばれるスルタン・アフメド・ジャミイ(1616年、宗教的政治的最高指導者であるスルタンのアフメド一世により建造。)があります。このインクのラベルはこの「ブルーモスク」を描いたものです。またラピスラズリは、紀元前3000年前のシュメール文明や古代エジプト文明の時代から霊力がある石と考えられていたため、人々はお守りとして身につけていました。特に女性たちはとってはアクセサリーとして愛用されていました。当然、オスマントルコ時代の後宮の女性たちもラピスラズリの装飾品を付けていたものと思われます。
このインクの色は、Midnight Blueと比べると淡く感じますが、実際紙に書いてみると、なかなか味のある深い色合いで、なかなか良い色だと思います。


4. 黄色(オレンジ)系統
Habanero:基本的には「ハバナの住人」という意味です。インクの色は赤みがかった黄色(オレンジ色?)という感じです。アメリカには、Habanero Pepper(最も辛いハバネロ系統のものは、58万スコビル。普通のペッパーソーズは10万スコビル)という世界一辛い(と言われる)唐辛子があります。この色からイメージしたもののようです。(ちなみにハバネロ・ペッパーの実の色は赤いのですが。)そうすると、アメリカ人の激辛イメージは、赤味がかった黄色(オレンジ色)で、日本人の激辛のイメージが真っ赤であるのとはズレがありますね。最近、日本でも激辛お菓子やカレーに「ハバネロ」という名前のものがありますが、どれも赤いパッケージだったので、こちらは日本人の激辛のイメージに合わせているようです。


●一つ気になること!
以前、ヘラ状のもので、紙に赤系統(Red, Tiannanmen)とHabaneroを付けてみたのですが、ある一定時間が経過したあと、その滲みの部分のみが、黄色っぽく変色していました。滲んだ部分の成分が変質してこのように発色したのでしょうか。碧さんがおっしゃるように黄色の色素が化学的に分離してしまうのかもしれません。
● まとめ
☆使用したヌードラーズインクの感想:赤系統や青系統に関しては、なかなか魅力的な色が揃っていると思います。いままでパイロットやセイラーの「赤」を試験の採点をするときに使っていましたが、色合いが明るすぎるのが不満でした。
ヌードラーズの赤系統(Red, Tiannanmen)の色は深い赤色で気に入っています。同じ赤系統のShah’s Roseの色は、華やかな感じがするのでラブレター向きかもしれません(笑)。紫系統のSaguaro Wineは、落ち着いた感じの朝顔のような「赤紫色」で残暑の今の季節、手紙を書くときに良いかもしれません。私個人が最も印象に残り「普段も使えるな」と感じたのは、ヌードラーズの青系統でした。Midnight Blue, Ottoman Azureの両方とも味わい深い良い色だと感じました。両者とも、(今のところは)時間が経っても色が変色することはなく実用にできると思います。サンプルは、フルハルターに置いていただいていますので、ご覧ください。
● 最後に!
この貴重なインクをくださった森山さん、この報告書の構成などを見てくださったキングスブルーさん、インクの命名の背景について重要なアドバイスをしてくださったTさん、そしてインク研究会の皆さまにお礼申し上げます。
以上、Noodler’s Inkの使用報告でした。