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フルハルター*心温まるモノ

インクの王道ブルー・ブラック-光と影- その2(碧)

  万年筆をお好きな方なら、他のインクに比べて、ブルー・ブラックは消えない、ブルー・ブラックはつまりやすい、ブルー・ブラックはフローが悪い、などの知識はご存知だと思うが、なぜブルー・ブラックだけが他のインクと違うのだろうか?
 さてさて、ブルー・ブラックとは?
 そこでまずインクの知識のおさらいをしてみたい。
 
 万年筆のインクは、染料型インク、顔料型インク、混合型インクに大別できる。
“染料型インク”の主成分は染料なので、水に溶ける。成分は沈殿せず、ペン先の腐食性が少なく、インクカスが生じない。また染料なのであらゆる色が作成可能で、色彩も鮮明である。今現在発売されているほとんどの万年筆用インクは染料型インクである。
 
 “顔料型インク”は水に溶けない色素を主原料にしている。一般的に黒色のものが多く、それらはカーボンブラックを用いている。色落ちが少なく粘度が高い。水に溶けにくいため万年筆用としては固まりやすく、手入れが難しい。主に製図用、劇画用などに使用されている。
 
 “混合型インク”は染料と顔料、またはそれ以外の化学薬品との混合によって作られている。別名科学インクとも言われ化学変化を利用したインクでもある。消えないと言われる本来のブルー・ブラックはこの混合型インクの1つである。つまり、ブルーとブラックを混合したインクではなく、科学配合によるインクなのである。
 
 万年筆用に作られたブルー・ブラックは、第一鉄イオンが酸化して第二鉄イオンに沈殿することを利用して作られている。つまり、無色透明の酸化鉄溶液を万年筆に入れて文字を書くと、書いたときには透明だが、しばらくすると酸化作用によって黒く文字が浮き上がってくるのである。しかし、それでは不便なので青い色を染料として付けたものであるという。色合いが染料の青と化学作用によって作られた黒が混ざってブルー・ブラックという色になっている。だから理論的には、書いた時点では青と黒の間のような色合いであるが、時が経つと黒だけが残る。そして、この黒は水にも強く、消えないという。これが本来のブルー・ブラックの組成だそうだ。
 
 ブルー・ブラックは消えない!水に強い!
 しかし、このことに疑問を抱いているのは私だけだろうか? ブルー・ブラックで書いたのに雨に濡れて消えてしまったという経験をされた方はいないだろうか? 本当にブルー・ブラックは消えないのだろうか?
そこで私は、ブルー・ブラックの耐光性テストと耐水性テストを行ってみた。実験条件は、以下の如くである。同じ紙の上に、同じ万年筆で現在市販されているブルー・ブラックを使って文字を書いてみた。耐光性テストはそれを1カ月間窓に貼り付けてどれくらい色落ちするか実験した。耐水性テストは、まったく同じものを1カ月間光を当てずに保存して、1カ月間後水道水で30秒間洗ってみた。結果は以下のごとくです。左側が書いたままのもの、右側は光に晒したものと、水洗いしたもので、それぞれ見た目で比較できるようにした。

【 ブルー・ブラック 耐光性テスト 】
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【 ブルー・ブラック 耐水性テスト 】
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 いががであろうか? 消えない、という神話は崩壊した? 多くのメーカーのインクが色落ちしている。
 まず、耐光性テストだが、Montblanc(ボトル,カートリッジ),Private Reserve,Sailorが比較的色落ちしていない。Platinum,Pilot,OMAS,Sheafferは見るも無惨に退色している。
 次に、耐水性テストでは、Pilot,Private Reserve,Pelikan,Montblanc(ボトル),Athea ink,Sailorが比較的色落ちしていない。逆にWaterman,Parker,Montblanc(カートリッジ),OMAS,Sheafferは見事に色落ちしている。水道水で洗うときインクが流れるシーンを映像でお見せしたいぐらいである。
 
 これらのことをふまえて、今回の実験だけで極論すれば、“消えない”と言えるインクはMontblanc,Private Reserve,Sailorである? しかし面白いのは、混ぜても大丈夫と言われているPrivate Reserve,Sailorが色落ちが少ないのはなぜか?(Sailorのインクは今現在販売されているジェントルインクではない前のインクを使用したのだが、このことが影響したのか?)。

 今回実験する前にある仮説を立てていた。色落ちしないのは本来のブルー・ブラックとして作成された科学インクで、色落ちするのは染料型インクとして作られたブルー・ブラックではないかと考えていたのだ。また混ぜても大丈夫なインクは消えるはずである、と。しかし、Montblancは予想通りだが、Private ReserveとSailorはまったくの予想外である。Private Reserveのミッドナイトブルーズは色が濃い分色落ちが目立たないのか? Sailorのブルー・ブラックは旧インクが科学インクで、新しいジェントルインクが染料型インクなのか?

 また、注目していただきたいのは、我がブレンドのブルー・ブラックである。耐光性テストでも耐水性テストでも本来のWatermanのブルー・ブラックより鮮明に文字が残っている。ブレンドすると化学変化をおこして、耐水性も耐光性も上がる結果となった。ブレンドするということの、危険性はここらへんにあるのかもしれない。

 また、もう1つの注目点は、Montblancである。今回はわざとボトルインクとカートリッジの両方を実験したが、耐光性テストではカートリッジの方が強く残り、耐水性テストでは、カートリッジの方はほとんど色落ちしてしまっている。ボトルとカートリッジは違うインクが入っているのか? それともインクを入れるときに何らかの付加条件が加わるためか? カートリッジは、プラスチックに入っているためにパッケージ後、化学変化が起こるのか? すべてのボトルインクとカートリッジの比較試験をする必要性があるかもしれない。

 さて、いかがでしたでしょうか? たくさんの疑問が出てきました。今回はあえて疑問のままにしておきます。これらの結果は紙質、使用したペン、使用したインクの製造年月日、実験場所などで、当然変わってくるからです。しかし、これらの多くの疑問の向こうに、真理への扉があることは間違いないのです。もっともっと多くの実験を繰り返さなければ答えは見えてこないのが当たり前かも知れません。

 最後に個人的なインクの使用感(インクフロー)を述べさせていただくと、Pelikan,Montblanc,Athea inkのブルー・ブラックはやはりインクのフローが良くないことがあります。逆にPrivate Reserve,Sailor,Waterman,Sheafferはインクフローは結構良いと思っています。
 耐光性、耐水性、インクフロー、色彩、値段、インク瓶の機能性、これらのことを自分の用途に鑑みてお好きなブルー・ブラックを選ぶのが万年筆の達人かも知れませんね。
by fullhalter | 2004-07-16 10:43 | インク研究会