「キングスゴールドとの出会い」(マーマレード・イエロー )
私と万年筆とのつきあいが始まってから、実はまだ2年ほどしか経っていません。それまでパソコン一本槍で手書きの文字は極力書かないようにしていた私が、何かの拍子に万年筆が「ぬらぬらと書ける」という事を読み、ぬらぬらとはいったいどんな書き味なんだろう、一度味わってみたいと興味を持ったのがきっかけでした。
さっそくインターネットで調べて、フルハルターの事を知り、翌日にはお店に行ってペリカンM600のBを注文したのが私の万年筆ライフの出発点です。(その後の万年筆遍歴については、のちの機会にご紹介したいと思います)
ペン先の調整が出来上がるまでの間、私の頭の中は万年筆の事でいっぱいでした。待ちきれずにデパートで鉄ペンの安い万年筆を買って使ってみたり、あちこちのホームページを読みあさったりしているうちに「4本のヘミングウェイ」の事を知りました。さっそく手に入れ、巻頭の「私のこの1本」をパラパラと見ながら「俺にはこんな限定品は必要ないな。書き味がぬらぬらの万年筆がたった1本だけあれば、それでいいんだ」と思いながら読み進むうちに、本多利康さんの1本、アウロラのソーレに目が止まりました。イタリアらしいきれいな軸。紆余曲折の果てにたどりついた究極のインク、キングスゴールド。こういうこだわりってあるんだな~、と参ってしまったのでした。
それからわずか1ヶ月後、ユーロボックスの藤井さんにソーレを探してくれるようにお願いしていました。しかし限定品として発売されてから6年を経たソーレはそう簡単には見つかりません。ひょっとしたら見つからないのかと弱気になった私は、せめてインクだけでもと、シェーファーのキングスゴールドを買いに走りました。そんな私の気持ちが天に通じたのか、藤井さんからソーレ入荷の知らせを聞いたのは、そのすぐ後でした。
さっそくソーレにキングスゴールドを入れたのは言うまでもありません。イタリアの太陽をいっぱい浴びたオレンジで作ったマーマレードを詰め込んだような鮮やかな黄色い軸、Bニブの太い線が醸し出すキングスゴールドの味わい深い濃淡。他の人のパクリと言われそうなのは潔しとしない、本多さんにも申し訳ない。でもこの取り合わせに私は参ってしまったのです。この日以来、ソーレにキングスゴールド以外のインクが入った事がありません。このインクのすばらしい所は、目にちかちかするような読みにくいイエローではなく、深みがあり、筆跡もしっかりと読み取れる絶妙の濃さだという事です。しかし、このキングスゴールドはあまり売れ行きが良くなかったのか、使い始めてすぐシェファーが製造を中止したというニュースが飛び込んできました。確かに普段あまり使う色ではありませんが、残念なことです。せめてもと、まだ店頭に残っていた在庫を探し2瓶ほど手に入れました。いまのペースで使っていれば、あと10年くらいはこのインクを使い続けられそうです。いつかはそれも尽きて、この色を楽しむ事が出来なくなる日がくるでしょうが、シェーファーのキングスゴールドが、私にインクを楽しむ事を教えてくれたことに間違いはありません。
by fullhalter
| 2004-03-26 13:20
| インク研究会