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フルハルター*心温まるモノ

第三十五話 モンブラン社のこと Ⅱ

先週は初めてのモンブラン社出張 <研修>について書いた。

その一年半後、1980年秋、修理部門の先輩とともに二回目の出張を命じられた。
この時の命題は、
1.検品基準のすり合わせ
2.ニブポイントの形状について
だった。
1の「検品基準のすり合わせ」については、10本の万年筆達を私と先輩、そしてモンブラン社の検品担当者二人の合計四人がそれぞれその10本で書き、滑らかと思うものからランク付けをした。
しばらく待たされた後、それぞれが何本合っていたかの報告を受けた。
「実はこの10本を機械にかけて順位をつけた。驚いたことに森山は10本とも合っていた。」
私が検品の責任者と判っていてのヨイショだったのか、本当に合っていたかは今も判らないのだが。

私にとって最大の命題は、2の「ニブポイントの形状について」であった。
1980年秋の半年か1年程前からクラッシックシリーズNo.221、No.320の14金ペン先のニブポイントの形状が全く変わった。
人の手で研がれた形状ではなく、丸い形状になっていた。
丸い形状だけなら許せるのだが、切り割りがひどいものは7対3や、6対4の割合で、私にはモンブランの製品とは到底言えないものであった。
3週間に亘って初めての出張(1979年春)の時に工場長だった人とNo.2の人と話合いをした。
毎日毎日、結論を出しては終わるのだが、翌朝にはその結論が覆され、また一から出直すという日々。
通訳はドイツ人と結婚された日本女性で
「ドイツ人としてはとても珍しいこと」と言っていた。
私も一回目の出張で、ドイツ人は嘘をつかない民族と思っていたので、驚いていた。

そんな毎日を過ごすうちに、最後は眠れなくなっていた。
三週間の最後の日、お別れの挨拶かと思ったら、これがとんでもない事に…。
その時判ったのだが、経営者が交代しており、工場の責任者もまた交代していた。
全てが見えた。
多くの人がニブポイントを手で研いでいたら経費がかさみ過ぎて価格競争に勝てない。
だから新しい工場の責任者がこれまでとやり方を変えていたのだ。
その考え方は決して間違ってはいないのだが、急ぎ過ぎた。

モンブランから離れて20年になるので、「もういいか」との思いで最後の日の事を。
工場責任者:「この3週間でこう決定された。」
私:      「そんな決定はしていない。」
工場責任者:「いや、決定したよ。」
私:      「その時お前はいなかった。その話合いをしたあの二人を呼んで来い。」
工場責任者:「二人とも休暇だ。」
やりやがったな。
社長    :「判った、判った、あと3日延ばせばいい。」
私は日本語で
「てめぇー、ふざけるな。3週間この件で話合ってきたんだ。」
たぶん鬼の形相だったに違いない。
最後に、
「私にはその権限はないが、日本に帰ったらうちの社長に絶対仕入れるな、と言う。」

それ以後の一年近くラインが止まり、以前の研ぎ方のNo,221、No,320が入荷した。
その間モンブラン社で誰がどんな話合いをしたのか判らないが、いい会社だと安心した。


―― 次週に続く。
by fullhalter | 2013-04-26 15:33 | 私と万年筆