記念日
当時のモンブラン日本総代理店 ダイヤ産業株式会社は、世界貿易センタービルの23階にあった。
1977年4月11日の朝、私はそこに居た。
1976年4月に以前の会社を退職していた私にとって、その日は、一年間待ちに待った仕事が出来る日であった。
あれから、30年である。
昨日のような気がする。
61才の私にとっては、万年筆の世界に身を置いて、半分の人生を費やしてきたのである。
何か不思議な気がする。
“人生”、振り返ると凄く早いものだと、つくづく思う。
当時のサービスステーションでは、誰もペン先をいじらなかった。
その理由は、こわいからだった。
私は、万年筆のアフターサービス、それもモンブランに従事していてペン先調整をなくしては仕事の意味がないと、強く思っていた。
パーツの交換作業だけでは“男の一生の仕事”には成り得ないと。
先輩達の尻を叩いてはじめたペン先調整。
その当時に私がしたペン先調整を思うと、冷や汗ものである。
お客様の“犠牲”が必要だった。
モンブランを使っていただいているお客様の“寛容なお心”、“犠牲”の基に育てられた私。
傲慢だが、職人を育てるにはなくてはならない社会の仕組みである。
一年前、その当時いらしてくださったお客様に、
「当時の森山さんに調整してもらったペン先、凄い形だけど記念にとってあるよ。」と言われた。
有難いと思った。
改めて、モンブランを使ってくださり、“寛容なお心”で私を許してくださった多くのお客様に、
心から感謝を申し上げます。
これからも、一途に精進致しますこと、お約束申し上げます。