フルハルター*心温まるモノ

第二十六話 フルハルターの現況(2)(3)

 フルハルターも開店以来11年4ヶ月半が過ぎた。
「よくもここまで来られたものだ。」が実感である。

 さて、11年以上も営業してきて、時々耳にするお客様の言葉に、「敷居が高い」がある。
その度に、私は「何故なんだ」と思わされた。老舗でもないし、大井町の方には叱られるかもしれないけれど場末のすぐに見つけられない程の小さな店なのに。
モンブランというブランドに居た為なのか。それとも、HPでの私の発言、また私自身の人間性の問題なのか、とても悩んだ。

 最近来られたお客様からは「万年筆についての知識がないと行ってはいけないのでは…。」「職人で恐い奴では…。」等々の思いがあることを知らされた。
「恐い奴」かどうかは、それぞれのお客様が感じられることで、自分では判らない。ただ自分では恐い奴だとは思っていないが、世間には「恐いものみたさ」という言葉もあり、是非ご自分の目で確かめるべく、いらしていただきたい。

 恐い奴かどうかは別にして、「万年筆について知識がないと…。」は全く違うと思う。
知識がないから、知識がある人間が居る店に行くべきではないだろうか。知識がない買い手が知識のない売り手から正しいアドバイスなど受けられる筈はない。最近は「始めて万年筆を使うので、自分に合う万年筆を。」と来られる方が多い。とても嬉しいことである。

 私は、EFでもFでもMでもBから(パイロットはコース、セーラーはズームから)研ぎ出している。
<ミクロの世界>をご覧いただければお判りと思うが、両者を比べると後者のニブポイント(イリジウム)が長い。長いということは、長~く使えるということは誰にでもお判りいただけるが、実はそれだけではない。通常ペン先はその太さよりも調整で太くすることは出来ない。Bから研ぎ出すと、EFに研ぎ出したペン先を使ってみて細すぎたら、Fにすることも可能になる。更に私が使い手にとって最もメリットがあると思うことがある。それは特に始めての万年筆を使う方には多いのだが、使い続けていくうちに、つまり…1ヶ月、3ヶ月、半年後には万年筆を持つ位置・筆圧・好み等が変わってゆく可能性が高い。

 もう少し実感していただく為に例を挙げてみよう。野球のバット・ゴルフのクラブなどの道具も何も判らずに使い始めるが、使い続けていくうちに、スイングが安定し、振り方が変わる。除々に自分のものになって来る。万年筆に限らず、道具とはそういうモノである。

 持ち位置が変わった万年筆のニブポイントはどうなのか。
最初に合わせたニブポイントの紙に当たる場所は違うところを紙に当てながら書くことになる。その時に必要と感じたら、B・コース・ズームから研ぎ出したそれは如何様にも対応出来るだけの大きさを持っていることになる。これが皆さんにはおそらくお判りいただいていない最大のメリットで、研ぎ屋・研ぎ師の私にとって自信を持って販売出来る最大の理由である。

 私自身は、じっくり、ゆっくりお話しが出来、更にご自身の使い方の変化に対応出来る店として「始めて万年筆を使う方」には最も相応しい店と思っている。

 モノに拘る方々にとってきっと「いい出逢い」になる。お互いに。  (2005-03-18)



―― フルハルターの現況(3) ――

 どうなんだろう。
フルハルターは極太のペン先を特別な思いで誰にでも勧めていると思ってはいないだろうか。
先日も、
「森山さんの意に反するかもしれないけど、細字にして欲しい。」と言う方が居られた。
雑誌やHPをご覧の方はフルハルターでは極太を勧めている、極論すれば極太しか勧めないと思われてはいないだろうか。

 その原因は1991年に発行された雑誌にBBを丸く研ぎ出したペン先を“森山モデル”と命名され、その後も”森山モデル”とか、“森山スペシャル”という呼び方で紹介され続けたからだ。
かく言う私も、このHPで自ら“森山モデル”と呼んでしまっている。私は基本的には世に言う「カリスマ」とか「達人」は嫌いである。本当にカリスマなのか、達人なのかは他人がそれぞれ感じるものであってメディア、まして本人が言うものでも、思うものでもない。“森山モデル”という言葉はややそれに似ているような気がする。
ただ”森山モデル”と呼ばれている研ぎ方をひとりひとりのお客様に言葉で伝えるには時間がかかり過ぎるので、自分でも手っ取り早い“森山モデル”と言う言い方を使ってしまっている。
この“森山モデル”が一人歩きして私自身が極太でなければと思っているという弊害が出ていると感じているのだが、これは杞憂であろうか。

 また一人歩きした結果、多くの方が何か特別な思いを抱き、妄想に近い書き味を思い、期待されているのでは…と思うと、恐ろしいことである。これも杞憂であればいいが。
“森山モデル”を既にお使いいただいている方の中には確かに「始めて経験する書き味」と、お気に召していただいている方もいるが、その反面「期待していたが、裏切られた。」と思って居られる方もいる筈である。「筈である。」というのは、「何だよ~。オヤジ全然書きやすくね~じゃね~かよ。」と直接私に言われる兵は殆どいないと思うからである。
食べ物の「旨い」「まずい」 万年筆の「書き易い」「書きにくい」も、ともに人それぞれの五感の判断である。おかしてはならない、その人の感覚での判断である。

 さて、そろそろ誤解されているのではと思っている結論に入ろう。
ペン先の太さも、本体の太さ・長さ・重さも使う方にとって道具として最も機能する万年筆が最善の選択である。
罫線の細いノートや手帳に太字のペン先で画数の多い漢字を書き込める筈がない。細い罫線の中に書き込むのであれば、細字のペン先を選択しなければならない。或いは細字が好きな人も居る筈である。
現にこのところ、海外メーカー(国産メーカーはその文字形態から々太さの表示でも1ランク或いは、1ランク半位細い)のEFでは太すぎるのでもっと細くしてくれと、要望される方も少なくない。私はそれをEEFとしてお受けしている。この場合細くすればする程、先を尖らせる為に紙に対する抵抗は強くなり、所謂ヒッカカリを強く感じる。
またBから研ぎ出すと、Bの書き味のようなEFやEEFになるのではと思われている方も、ままあるが、EFはEF、EEFはEEFの書き味である。いずれにしても、フルハルターでは貴方の使う用途、好みに合わせて「貴方にとって最良の道具」になる万年筆を求めてもらいたいと願っている。私、森山の好みなんて関係ない。クソ食らえ…である。  (2005-03-25)
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by fullhalter | 2005-04-22 09:34 | 私と万年筆