秋晩蒔絵
今私が持っている、夢舟さんに絵付けしていただいた万年筆では最新のものである。
数年前に夢舟さんの工房を訪ねた時、職人同士ということもあり、私が蒔絵が、否、手造りが好きだと判っていただいたような気がする。
というのは、その時に野村美術館で開催された作品展の貴重な本をくださったからだ。
その本の作品達の中でひときわ私の心を惹きつけた作品があった。
それは金を使った作品が多い中に目立たない静かな、穏やかさを感じた作品である。
何時の日か、この絵を万年筆にと思って実現したのが、今回の作品である。
では、画像をご覧いただこう。
この作品は「秋晩蒔絵」と名づけられ、晩秋の日の暮れ落ちる一瞬を描いた、変塗研出地に黒艶消漆で秋草を高蒔絵した作品である。
金・銀・プラチナ・螺鈿などなどの派手さは無いが、何とも言えない落ち着き、穏やかさを感じさせてくれ、とても好きな作品だ。一見、高価そうに見えないところに、日本の良さを感じている。
だからと言って、金・銀や螺鈿が悪いなどと言っている訳でもない。
つまりは、金だろうが、螺鈿だろうが、艶消しだろうが、全体のバランスが大切で、それを好きになるかは個人の好みである。
ただ、造り手である作者がどんなセンスと技を持っているかは、大いなる問題ではあろうが。