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フルハルター*心温まるモノ

第二十五話 宝積(ほうしゃく)

私は今回の原稿を書くことを躊躇い、迷った。今のこの時代にどれ程の人に信じて貰えるか。万年筆好きであれば、より信じられない出来事であるから。

今回の「インク研究会」碧さんも、立ち会われた仲間から
「出すのを止めたほうがいいよ。」とアドバイスされたと、相談を受けた。ただ、その相談を受けた時は、私の腹は固まっていた。これから書く”いい話”を一人でも二人でも信じ、ご自身の生き方に多少なりとも影響を与えてくれるのであれば、それでいいと。
「碧さん、構わないから出しましょう。」
今日これから書くことは、現実に起こった出来事である。「インク研究会」碧さんの原稿と併せて読んで欲しい。

10月23日 以前からいらしていただいているご兄弟がいらっしゃるとメールが入った。この方(兄)はフルハルター10周年万年筆を購入され「ゼクス・フェーダークラブ」の会員で、9月11日の「ゼクス・フェーダー・クラブの集い」に参加された。その集いには「インク研究会」の皆さんも参加され、それ以降それぞれの方達が親睦を深めておられた。その日も「インク研究会」の皆さんと「ゼクス・フェーダークラブ」会員の方、他に1名が参加され、閉店後飲み会に移った。

ご兄弟のお兄さんが来店されてすぐに
「森山さん、あの先輩のことよく判るな~。いいよね。ああいう考え方って。」
(※ マイコレクション《モンブランNO.72》を参照してください。)
ああ、やっぱりご賛同いただける方が居るんだと、嬉しかった。

一次会の雑談の中で碧さんが、どうしてもモンブランのヘミングウェイを手に入れたいと語り出した。私が冗談で
「ボールペンとセットで100万だね。」
というと、本気で、
「それでいいから、いつか手に入れる。」と。

時が経ち、全員で二次会へ流れた。私は隅っこに座り、碧さんとお兄さんは私から離れたところに向かいあっていた。―― どの位の時間が経ったろうか。碧さんを見たらヘミングウェイを右手で高く上げているではないか。彼らの会話は聞こえていない私だが、おそらくお兄さんの慶太さんが差し上げたのだろうと思った。慶太さんはそんな方だと想像していた私は、
「やっぱり、やったか。」
慶太さんと碧さんはそれまでに一度しか会ったことがない。今回が二回目という事実。人の出逢い、そして互いに引き合うものは決して回数ではないことが面白い。つまりは、いつでもそんな機会に「めぐり逢う」可能性は誰にでもあるのである。

翌日の碧さんからのメールはメロメロ…否、メタメタであった。いつもしっかりとした文章を書かれる方なのに、言い方は悪いが、
「訳判んないよ。」
と言っても過言ではない、心の乱れがあった。それはそうだ。あんなに欲しかった、垂涎の的のモンブランヘミングウェイを貰ってしまったのだから、心穏やかであろう筈がない。

後で慶太さんに聞いたところ、
「そりゃ~ヘミングウェイの価値は知っているし、自分も好きだよ。でも碧さんがヘミングウェイのことを話している時の目は真剣そのもの。この人は本当に好きなんだと思ったね。これは私の手元に置いておくより碧さんに使ってもらった方がいいな~と思った。で、彼に渡しただけで。それよりもすぐにモンブランNO.74をくれたことの方がびっくりした。」

二次会は翌日の仕事の関係で私はいつも先に失礼している。従ってKings Blueさんが感激してモンブランNO.74を慶太さんに差し上げたことは知らなかった。Kings Blueさんならずとも立ち会われた9人は全員感激したし、いい仲間を持てたことの幸せを感じていない筈がない。慶太さんから碧さんへ、そしてKings Blueさんから慶太さんへと有形のモノ(財産)が移行したが、全員がもっともっと大切な大事な無形の財産を得た。有形には限りがあるが、無形には限りがない。本当にいい仲間、かけがえのない仲間である。

さてさて、皆さんはどう感じていただけただろうか。
「そんなことある訳ないだろう。だってあの垂涎の的ヘミングウェイを人にやるなんて」
と思われたでしょうか…。

丁度タイミングよく、フルハルター北海道支部長から昨日(8日)届いたメールに、
「整体を学んだ(この方は脳神経外科医で、西洋医学だけでなく東洋医学を併せて患者さんと接したいという思いで学ばれた)恩師が『宝積(ほうしゃく)』という言葉を大切にして居られた。」と言う。その意味は
「尽くして見返りを求めずという心根が自分の中の宝を積むことになる。」

正に今回の出来事、そのものである。
by fullhalter | 2004-11-12 15:16 | 私と万年筆