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フルハルター*心温まるモノ

第二十三話 『Memo 男の部屋』 

  『Memo 男の部屋』には古山浩一画伯のページがある。

  今回の3月号では「万年筆画伯が行く/第6回」とある。長崎の松屋万年筆病院や、大森の十全社等々が既に紹介されていたと思う。また革製品を作っているお店の紹介もしていた。いずれにしても、古山画伯が紹介しているものは、「職人仕事」にこだわっておられる。

  古山画伯が“万年筆倶楽部フェンテ会長”中谷でべそさんと一緒に訪ねてこられたのは7~8年前のことだったと思う。「万年筆に携わる職人は皆さん高齢なので今のうちに職人の生の声を聞き後世に伝えたい。ついてはフルハルターも協力してくれないか。」 「素晴らしいことですね。全面的に協力させてもらいます。」 そして出来上がった作品が『実録万年筆外伝 その1 4本のHEMINGWAY』1997年12月自費出版本であった。その後グリーンアロー社から『実録・万年筆物語 4本のヘミングウェイ』2000年3月が出版された。この4本のヘミングウェイは今でも「どこにも無いんだけど、何とか入手できないか。」とお問い合わせをいただくことが多い。3月か4月に改訂版が内容を更に充実させて出版される予定なので楽しみにしていて欲しい。

  古山さんはそれ以前に一度ご来店されたことがあったと言われたが、私の記憶にはなかった。後で聞いた話だが、「中谷さんと一緒に行く前に一度相談に行った時、森山さんは万年筆は文字を書く道具であって絵を描くものじゃないって言ったんだよ。」と言われ、恥ずかしい思いをした。

 その後、セーラー神様 長原宣義さんを中心に古山さんを含め6~7人の「万年筆の良さを世に広めたい」と願う人達が年に何回か集まるようになった。いくら神様と言われている長原さんでも造り手であって使い手ではない。一方古山さんは究極の使い手ではあるが、造り手ではない。造り手と使い手の意思が通じ合えばいい道具が出来、それがいい作品を生む。使い手が職人を育て、職人が使い手を育てる。これは万年筆に限らず、全ての道具について言えること、真理である。

 私もモンブラン時代はモンブランを使っていただいているお客様に、そしてフルハルターを開業してからはお求めいただくお客様に育てられてきた。先生、師はお客様である。そんな付き合いを重ねてきた古山さんだからこそ、今回の『Memo 男の部屋』の内容になったと思う。幸いに古山さんと私は同じ常磐線を利用している。皆さんとの集まりの後は二人でゆっくり話しながら帰宅する。つき合えばつき合う程、職人仕事を愛し、繊細で優しさに溢れた方であることを知らされる。

 さて、この本の中では“フルハルターインク研究会”として3人のお客様の写真とお名前が載っている。この3人の方々とは1年少々と、1年弱のお付き合いである。昨年末に偶然店で出会った3人。一人の方が土曜の10時にご来店された。この方はゆっくり話したいので早めに(他のお客様が来られる前に)来店される方なのだが、昼前後にもう一人の方が来店され万年筆・インクそして、10周年モデルと話が盛り上がっていた。それから1時間後位だったろうか、3人目の方の来店である。この方がインクに詳しい。うるさい。こだわる。また2人目の方もインクを混ぜ合わせ、ご自分の好きな色を作ってしまう方である。

 そんな2人が鉢合わせしてしまったのだから、も~どうしようもない。「僕だけかと思っていたら貴方もですか。インク、面白いですよね。」インクに限らず万年筆そのものを使わない時代である。周りを見ても万年筆を使っていようものなら変人扱いである。刺すような眼差しで見られる。虐げられる。そんな思いを日頃からしている万年筆好きが同好の志を見つけた日にゃもう大変。地獄に仏。いつまでたっても話は終わらない。(フルハルターではよくある風景。この3人の方に限らず、虐げられたウイルス感染者の方々は堰を切ったように同病者と話し出すのである。これがまた何とも楽しく微笑ましい風景で、私をとても和ませてくれるのである。)

 3人の方に留守番をお願いして用事を済ませに外へ出た間に、それぞれのメールアドレスを交換したらしい。始めに来た方はついに帰れず5時過ぎまで居られる結果となり、7時間以上も狭い狭い店に閉じ込められた。だが、その1週間後3人の方から忘年会をするのだけど、森山も参加しないかとお誘いをいただいた。7時間以上も閉じ込められ、お気の毒にと思っていたが、結構楽しかったのかもと安心した。

第二十三話 『Memo 男の部屋』 _e0200879_11294574.jpg


  その忘年会の日に古山さんが偶然にもフルハルターに取材に来られた。3人の方たちは古山さんの顔を見るなり予期せぬ恋人に会ったような表情。『4本のヘミングウェイ』の凄さを改めて実感した。忘年会の席でもインク、そして混ぜ合わせる話で3時間余り……。凄い世界である。その時に古山さんから「そんなにインクが好きで混ぜ合わせたりしているならデーターの公表を」と命じられた結果、“フルハルターインク研究会”と命名されたのである。
by fullhalter | 2004-01-30 11:27 | 私と万年筆