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フルハルター*心温まるモノ

第十二話 感謝をこめて…… 

  今日4月11日は私にとってとても重大な日。1977年の今日万年筆の世界(禁断の世界)に足を踏み込んでから、4半世紀の記念日である。このことは、<私と万年筆>の第2話「モンブランへの入社」ですでに述べているが、25年目の記念日に改めて申し上げたいと思う。

  1976年3月 当時勤めていたカメラメーカーを退職した。当時も今と変わらず職人仕事を好んでいた私は、革職人を目指し、その道のアルバイトをしてみたり、好きだった漆方面の面接を受けてみたりもしたが、いずれも成果が出ることは無かった。この30歳から31歳までの1年間、「仕事がしたい」という強い気持ち、30歳を過ぎて職が無い、今で言う「プータロー」のような暮らしにあせりを感じていた自分を振り返ると、よく1年間も耐えたものだと思う。しかしその1年間があったからこそ、私が最も愛する万年筆の世界に出会い、そして今、その世界で生きていくことが出来ているのだと思う。その喜びと感謝の気持ちが25年という歳月を過ぎた今日、私の胸を一杯にしている。

  25年前の今日、千葉県我孫子市の自宅を出て、当時のモンブラン日本総代理店ダイヤ産業がある浜松町世界貿易センター23Fに、やっと仕事が出来る喜びと少々の不安を持ちながら向かった朝を、昨日のことのように思い出す。

  ダイヤ産業から始まった万年筆稼業、サラリーマンで定年を静かに迎えればよいものを何を血迷ったか無謀にも1993年に万年筆専門店を開業してしまった。

  開業に当たり私は2つの柱を立てた。そのひとつは使う方に合わせて書き易くニブポイントを研ぎ出すオーダーメードの研磨をすること。もうひとつは「万年筆好きの方のためのサロン」として皆様に楽しんでいただける雰囲気のある専門店でありたいということ。いつからこんなに時の流れが早く、人が人らしく生きられなくなったのだろうかと感じていた私は、せめてフルハルターの店の中ではゆったりとした時間が流れて欲しいと願っていた。

  研磨の方は職人仕事ゆえ、今後も自らに磨きをかけ続けるしかない。けれど、「万年筆好きの方のためのサロン」と来店されるお客様に感じていただけているかどうか、気になるところだった。

  先日ご夫婦で来店された方が店の壁に掛けてある万年筆の絵を見て、「素敵な絵ですね」とおっしゃった。それらの絵は“4本のヘミングウェイ”の著者古山浩一氏の原画である。それらの絵やポスターが時の流れをゆったりと感じさせてくれているようで、「この扉のすぐ外は忙しい世界なのに、この中は全く別の世界のようだね 」と言われた。そして万年筆の話をして店を出る時、「そろそろ下界に戻るか」とおっしゃった。

  万年筆はゆったりとした時間の流れに合う道具で、それを扱う店もそうでありたいと願って開店したフルハルターである。この時、ようやくお客様にゆったりとした時間の流れる空間を感じていただけたと思い、嬉しかった。

  ご自身で「フルハルター北海道支部長兼極東支部長」と名乗っておられる方から最近こんなメールをいただいた。<世の中でもファーストフードからスローフードへという動きがみられます。能率重視、ファーストビジネスがよしとされる風潮のなか、フルハルターは、スロービジネス(こんな言葉でいいのでしょうか?)を邁進して頂きたいと思います。>

  おひとりおひとりに合わせて研ぎ出しをして販売するフルハルターは、絶対にファーストビジネスにはなれない。これからもスロービジネス、そして店の中ではゆっくりと穏やかな時間が流れるようでありたい。


  初心に返り、「さあ今日もフルハルターに出勤しよう」。

                                   2002年4月11日
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by fullhalter | 2002-04-11 11:26 | 私と万年筆