人気ブログランキング | 話題のタグを見る

フルハルター*心温まるモノ

第五話 フルハルター開業

 モンブランで約17年アフターサービスや品質管理を担当して、万年筆は誰にでも合う、つまり誰が書いても書き味が良く、インク切れのしないペン先を作ることができないことを、身にしみて感じていた。
  書きにくい、インク出が悪い等々で修理するにも、使い手の角度が判らないから、一般的な調整をしていたのだが、使い手の筆記角度が想定した角度と反対だと、修理する前よりもかえって悪くなるという恐怖感が、いつもついてまわった。
  
  また店頭で試し書きをする際も、ほとんどの場合はボトルインクをつけ、立って書かねばならない。インクをつけての試し書きは、通常よりインク出が多くなるために、ヒッカカリや正確なインクの出方またインク切れ等が判らない。また立って書くと、万年筆の筆記角度が、通常の角度と違ってしまい、正確なチェックができない。
  
  もう一つ、万年筆についてゆっくり話しができ、しっかりとアドバイスしてくれる店がほとんどないという状況である。これは万年筆に限らず、どんな業種でも、個人経営の店が成り立ちにくい状況である。万年筆を使ってみたいという初心者から、万年筆大好きベテランまで、気楽にゆっくりと時を過ごせる万年筆屋を望んでいるのではないかと思い、1993年10月にフルハルターを開業した。
  
  使い手の筆記角度に合わせ、また好みに合わせて、1本1本ニブポイントをその人のオリジナルポイント形状に研いで販売したいのと、ゆっくりと万年筆の話しができ、正確なアドバイスや、細かな要求も気楽に言えるような、サロンみたいなものでありたいと願い、開業したのである。

 以来月日が流れたが、有難いことにたくさんのお客様との良い出会いがあった。フルハルターに来られる方は椅子に腰かけ、ゆっくりと話をしていかれる。万年筆の話から始まり、ものを書くことについての話、趣味の話、仕事の話、社会の話、話題は多岐にわたる。話をかわすうちに、その人にとっての万年筆というものが見えてくる。
  
  だから研ぎ出しを行う時には、荒研ぎの段階から、その人の筆記スタイルはもちろん、もっというならライフスタイルのようなものまで含めて、どういった時間にどのように使われる万年筆かまで考慮しながら、一本一本をゆっくりゆっくり、その人に合わせたやり方で丹念に研磨材を替えながら研いでいく。こうしてやや大げさに言えば世界にたった一本のその人のための万年筆ができあがってゆく。
  
  お客様がご満足いただけるまで、心をこめて調整させていただく。ホームページを開いても、このポリシーを変えるつもりは、自分としてはない。お客様には来店して万年筆をお使いになる様子を見せていただきたいし、お電話を気軽にいただきたいと常に思っている。
by fullhalter | 2001-01-20 15:11 | 私と万年筆