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フルハルター*心温まるモノ

第三話 森山モデルの完成まで 

私がモンブランに入社した当時のペン先特にMは書きやすいものが多かった。
ボディの細いノブレスのMは、ウイングニブと呼ばれているタイプで、原型は1950年代のNo.252、1960年代のNo.12で、非常にきれいに研がれているものが多く、また書き味も柔らかくてなめらかだった。
それに比べBとかBBいわゆる極太のペン先は、ポイントの形状が四角で使うのにとても難しく、入社して3~4年経過した頃には、これらを何とかMをそのまま大きくしたような形状にして、もっと多くの人達に使ってもらえるようにできないかと考えるようになっていた。

丁度その頃に、創始者の二代目で社長であったMr.ヂャンボアと書き味についてディスカッションする機会を得た。
彼はその時、ニヤッと笑いながら、これはどうだとノブレスのNo.1147を私に手渡した。
この時のMr.ヂャンボアは、書きやすいというのはこういうペン先のことをいうのだとばかり、自信満々、勝ち誇ったような態度に見えた。
確かに試してみたら今までに経験のない書き味で驚かされた。
早速ルーペでニブポイントを見ると、なるほどと納得した。
もともとはBポイントのものを、すごくきれいなMをそのまま大きくした形状に研磨されており、自分の中でやっぱりこれだと確信した。
Mr.ヂャンボアに「これはスペシャルメイドだ。」と言うと、彼は「判ったか。」とまたニヤッと笑った。
  
これが森山モデルのヒントとなった。
それからBでもBBでも、両角を落としてMの形状をそのまま大きくした研ぎをしようと時間のある時に少しずつ練習を始めた。
そして、1984年に、ある作家にデパートでの展示会のために、自筆の原稿を借りた。
その御礼として万年筆を一本差し上げることになり、その作家の筆記角度に合わせて、BをMタイプの形状に研いで渡した。
その礼状には「何たる書き味の良さでしょう!」と書かれてあり、やっぱりこの方法で良かったと確信した。
モンブランの一介の社員でありながら、モンブランのB、BBとして販売しているものを、まったく違う形状に変えてしまって良いものか、また気に入らなかったと言っても、元に戻すことは決して出来ないというプレッシャーから、実際にこの研磨は、自分のもの以外にはしたことがなかった。
  
1984年の作家へのプレゼントから7年経過した1991年1月に、非常に親しくさせていただいていたお客様に、思い切ってBとBBをMタイプの形状に調整した私の万年筆を書いてもらった。
BBを書いた時のその人の反応をじっと見ていた私に、一寸間をおいて「まさにこれがヌラヌラですね。言葉では知っていたけれども、実際に書いた経験は初めてで、感動しました。」と言ってくれた。
ああよかった。
でもやっぱりという気持もあって、自信が持てた。

次は誰に試してもらおうかと思っている時に、No.149のBBばかり使っている若い人が来られた。
彼は生命保険会社の社員でありながら、フリーのライターもしていて、サンプルのBBを試したらぜひ自分のもこの調整をしてくれないかと依頼された。
この人が後に、いまは廃刊になった『 BTOOL 』という雑誌で、森山モデルと命名し紹介してくれたのである(1991年12月17日号第4巻16号<通巻56号>)。

1980年 Mr.ヂャンボアのNo.1147
1984年 作家の「何たる書き味の良さでしょう!」
1991年 森山モデル「まさにヌラヌラ」(1991年12月17日号第4巻16号<通巻56号>)
1994年 森山スペシャル『BTOOL』1994年8月18日号第6巻16号<通巻119号>

長い時間を経て、日の目を見たのである。
ありがたいことに、万年筆好きの人だったら良く知っている鳥海忠さんが、『ホンモノ探し――人生が豊になる小道具』という本の中で、モンブラン146森山モデルとして8頁に渡って書いていただいている。

by fullhalter | 2001-01-01 18:56 | 私と万年筆