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フルハルター*心温まるモノ

第三十六話 モンブラン社のこと Ⅲ

先週は2回目のモンブラン社出張でつらく苦しい3週間の話しだった。
私はモンブランは世界一、日本一でなければ、との気持ちが凄く強く、あの時のニブポイントの形状はどうしても許せなかった。
けれど、その時以来生産を止め、再度入荷した時は以前の手研ぎ形状のニブポイントに戻っていた時は嬉しかった。
世界中に総代理店があり、ドイツのモンブラン社にはドクターやマイスターが大勢いるにも係わらず、日本の総代理店の一品質管理者である私ごときの言い分を通してくれたモンブラン社はいい会社だとつくづく思わされた。

日本のマーケットは際だってお客様が強く、世界から見れば「日本の常識は世界の非常識」とも言える。
その日本の常識を時間をかけて理解してもらうことが輸入元の務めでもある。
ドイツモンブラン社と日本の総代理店は対立する立場ではなく、同じ船に乗っていると私は考えていた。

ある時はモンブラン東京工場としての仕事もしていた。
入荷した製品に欠点があったものを返却せずに、何度も私たちで直す作業をしてきたのだ。

1980年秋の出張の最終日に初めて会った社長に、
「てめぇー、ふざけるな。」と言って、
その当時、どうやら「クレイジー」と呼ばれていたらしい私。

入荷したボールペンに欠点が見つかり、
「返却せずにこちらで直すから工具をください。」とお願いしたのだが、その社長が出張と重なった時期で自ら持参してくれた。
「社長にお持ちいただいて申し訳ない。」と言った私に、
「あなたの為なら何でも。」
何があったのだろうか…。
おそらく社内であの時のニブポイントは欠陥があり、森山が言っていたことは正しかった、と理解してくれたのだと思う。

日本の総理大臣のようにある時期からモンブラン社の社長は次から次へと変わっていった。
会ったこともない新しい社長が私をさがして握手を求めてくれた。
「何故、私に?」と不思議に思ったが、その時の話が代々伝わっていたのだろう。

どんな相手でも譲ってはいけないことがある。
それをあの時のモンブラン社の人たちは理解してくれた。
本当にいい会社の東京工場の一員だと実感していた。
必ずしも正しいことが通る訳ではないので。
by fullhalter | 2013-05-03 15:37 | 私と万年筆