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フルハルター*心温まるモノ

第八話 フルハルターの看板について



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  フルハルターの看板は、一位(いちい)の木で作った。
 
  いちいと言っても判らない人が多いかも知れないが、飛騨高山では「いちいの一刀彫り」として昔から有名である。北海道では「おんこ」と呼ばれ、母の実家の北海道で生まれた私は良く知っていた。 この木は内部に油分を含んでいる為だろうと思うが、時の経過と共に色が濃くなり、深いツヤが出て味わい深くなる。 私の良く言う「熟成」である。

  その内家具でも造る為に、何時の日か「おんこ」を手に入れたいと思っていた私は、かれこれ30年位前にその機会を得た。 札幌の叔母のところに滞在していた時に、「おんこが欲しいのだけれど何とかならない?」と聞くと「旭川に製材会社の社長の知り合いがいる。」と言われ、旭川まで出かけた。 旭川の会社に着いた私達をその社長は車に乗せて山の中を小1時間も走り、貯木場に連れて行ってくれた。 そこには直径30cmから70~80cmもあろうという大木がごろごろと横たわっていた。
  
  「これがおんこだ。どれが欲しいんだ。」
  おいおいこんな大木をどれが欲しいんだと言われたって、材木屋じゃあるまいし、答えられる訳がねえだろうと心の中で思いながら、
  「どれが欲しいと言われてもだいたい、いくら位するのかも判らないので。」 
  「ああ、安いよ。」などと会話をしながら、大、小取り混ぜて5本位選んだ。 自宅まで運んでいくらになるか確認すると、十数万円だった。 当時の十数万円は決して安くはないが、何となく買うことになってしまった。

  それから20年余り、庭で厄介ものになっていた、その「おんこ」達の出番が巡ってきた。 1993年 モンブランの退職を決意し、万年筆専門店を開くことにした私は、店の看板、テーブル、イス、その他もろもろをこの「おんこ」達で造ることにした。 在職中の休日は朝から夜まで、退職してからは毎日が「おんこ」達との格闘だった。
  好きな大工仕事、それも少しずつではあるが形になっていく嬉しさ。 更に日々店らしく配置されていく「おんこ」達。 心躍る人生最良の時期を「おんこ」と共に過ごした。 今は懐かしい「思ひで」。

  この「おんこ」達で造ったものには、ロゴ看板の他に看板が2枚、店用のテーブルにベンチ2つ、作業場のテーブルにベンチ2つ、そして、傘立てにごみ箱。 思い返すも楽しい日々だった。



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(現在看板はワイルドスワンズの看板も含めて全部で5枚です。2004-09)
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by fullhalter | 2001-06-30 10:00 | 私と万年筆